ぼくは自分の目を疑いました。
ワインボトルからグラスに流れ出ているその液体は、この世に存在するワインではありませんでした。
吸血鬼ドラキュラの口元から滴り落ちる、悪魔の唾液と血が程よくコラボした、どす黒く、気持ち悪い、まさしく糸を引く液体だったのです。
ぼくは恐る恐るその液体を口にしたのでした。
それはもう ワインなんていう代物ではありませんでした。腐った葡萄と卵白が渾然一体化した、この世のものとは思えない液体。ぼくの口の中では全ての粘膜の細胞が一瞬にして『今すぐ吐き出せ!』
と指令をだしました。(グ樹具授ペッ)。
ゴーポン:「H君? このワインってテイスティングしてもらったの?お客様に。」
H君:「はい」。
ゴーポン:「だれに?」
H君:「多分、お父さんだと思われます。一番年を取っているようでしたし、メニューなんかも色々と仕切って見えましたので…」。
ゴーポン:「そのお父さん、何も言わなかった?そのワイン飲んで。」
H君:「はい。”結構です”って言われました。」
ゴーポン:「・・・・・・・・・・・・・・・・」。
店内は益々混みあって来て、まさに多忙のピークと化し、誰もそのワインのことに対応なんか出来るはずもありません。
ゴーポン:”や。ば。い。…こ。れ。は。マジ。や。ば。い。…”
『穴があったら入りたい。誰か代わって。お願い…』
どう対応しようかと右往左往してた時、事情を察知していたA君が足早にゴーポンの所へ寄ってきました。
A君:「あ、あのぉ、あちらのテーブルのお父様が呼んで見えますけど…」。
ゴーポン:「わかった。すぐ行く。」
覚悟は出来ておりました。
5m,3m、1m、お父様と目が合いました。僕はもう、凍ったようにその場に立ちすくんでおりました。
その時、お父様はあまりにも恐ろしい事を口にしたのでした。
『#$ &%&’&’(’()#$&?』
ゴーポン:「そ、そんな…」。
つづく