本当にあった怖ぁ~い話つづき③

僕は自分の耳を疑いました。

ゴーポン:「は?。はい?」

お客様:「ええ。同じワインをもう一本お願いします。」

ゴーポン:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

この瞬間、僕の足元から頭のてっぺんまで赤い戦慄が走ります。

僕は自分が想定していたお父さんのセリフと、あまりにも自分の想定から乖離した、このお言葉のギャップに対応できず、返事をしないまま カチコチの笑顔を振りまきながら厨房内へと引き返してきたのでした。

ゴーポン:(これってどう言う事・・・?。俺たち何かテストされてんのかなぁ。でもあのお父さん、そんな感じでもなかったしぃ・・・・。それともタダの味覚音痴?イヤイヤ、あのワインの味ででそれは無いよなぁ。)

途方に暮れている時間はありません。僕は意を決し、お客様のテーブルへ行き、最初に出したワインの状態が良くなく、本来の味ではなかった事、それをそのまま召し上がって頂いてしまった事、その事への対応が遅れてしまった事へのお詫びをし、別のワインを、召し上がって頂きました。

お父さんは「へぇ、そうだったんですかぁ。」と言い、その後、何のリアクションも無く、食事は滞りなく済んだのでした。

ゴーポン:(これって何なの?・・・どう言う事?)

頭を抱えながら店内を走り回っていた頃、そのお客様達は席を立たれました。

僕は会計でお支払いをされているあのお父さんのすぐ横へ行き、その振る舞いを見届けたく、立っておりました。

恐る恐るお父さんのお顔を崇めてみるとタイミング悪く目が合います。

ゴーポン:・・・・・・・・」。

お父さん:「いやぁぁ、今夜は本当に有難うございました。楽しく食事が出来ました。

ゴーポン:「は、はい。こちらこそ有難うございました」。

お父さん:「それとぉ、最初に飲んだあの赤ワイン、あれはあれで美味しかったよ。二本目のワインも良かったけど・・・」。

お父さんは笑っていました。しかし、なんとなくその瞳の奥からは僕の目をガッチリ捉え、なにかを訴えるように微笑んでいました。

ゴーポン:「あ、ああああ・・・・」。

僕は棒立ちになったままお見送りしていました。

翌日の朝、そのお客様はホテルのフロントで何のクレームを言うでもなく、お帰りになられたそうです。

すぐさま僕はそのワインを仕入れた会社へ事情を説明し、そのワインメーカーの品質の確認と輸入業者の保管状況などを報告してもらうよう連絡しました。

2,3日後、そのワイン業者から連絡がありました。

やはり、あのワインはおかしかったのです。醸造過程で雑菌が入り、腐敗してしまったそうです。その後、僕たちのワインだけでなく、全国へ出回ってしまったそのワインは数日間かけて全て回収されました。

ワインのことはこれで解決しました。

しかし、ゴーポンには大きな謎が残ってしまったのです。

あのお父さんの本当の真意は????!

本当に美味しいと思ってのんでいた。

おかしいと思ったけど同業者で気が弱かったため、わざと反対のことを言い、教えようとした。

そのワインを扱っている会社の担当者の家族だったので何も言えなかった。

僕はこの中のどれかだと思っています。しかし、今となってはもう、その謎をとくことはできません。(。あの時、もっとこうやっていれば・・・)と悔やんでなりません。

あの夏の出来事は永遠に解くことの出来ない謎となってしまったのです。

キッチン飛騨ソムリエ日記

終わり

このお話はすべてノンフィクションであり、登場人物、レストラン、ワイン等は全て実在するものです






本当にあった怖ぁ~い話つづき②

ぼくは自分の目を疑いました。

ワインボトルからグラスに流れ出ているその液体は、この世に存在するワインではありませんでした。

吸血鬼ドラキュラの口元から滴り落ちる、悪魔の唾液と血が程よくコラボした、どす黒く、気持ち悪い、まさしく糸を引く液体だったのです。

ぼくは恐る恐るその液体を口にしたのでした。

それはもう ワインなんていう代物ではありませんでした。腐った葡萄と卵白が渾然一体化した、この世のものとは思えない液体。ぼくの口の中では全ての粘膜の細胞が一瞬にして『今すぐ吐き出せ!』

と指令をだしました。(グ樹具授ペッ)。

ゴーポン:「H君? このワインってテイスティングしてもらったの?お客様に。」

H君:「はい」。

ゴーポン:「だれに?」

H君:「多分、お父さんだと思われます。一番年を取っているようでしたし、メニューなんかも色々と仕切って見えましたので…」。

ゴーポン:「そのお父さん、何も言わなかった?そのワイン飲んで。」

H君:「はい。”結構です”って言われました。」

ゴーポン:「・・・・・・・・・・・・・・・・」。

店内は益々混みあって来て、まさに多忙のピークと化し、誰もそのワインのことに対応なんか出来るはずもありません。

ゴーポン:”や。ば。い。…こ。れ。は。マジ。や。ば。い。…”

『穴があったら入りたい。誰か代わって。お願い…』

どう対応しようかと右往左往してた時、事情を察知していたA君が足早にゴーポンの所へ寄ってきました。

A君:「あ、あのぉ、あちらのテーブルのお父様が呼んで見えますけど…」。

ゴーポン:「わかった。すぐ行く。」

覚悟は出来ておりました。

5m,3m、1m、お父様と目が合いました。僕はもう、凍ったようにその場に立ちすくんでおりました。

その時、お父様はあまりにも恐ろしい事を口にしたのでした。

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ゴーポン:「そ、そんな…」。

つづく

本当にあった怖ぁ~い話 つづき

H君:「は、はいそ、そのぉ、なんて言うか、ぼくもワインをグラスに注ぐ一瞬しか見てなかったんですけどぉ、なんていうか あのぉ、今までのワインには無い粘り気というか 糸を引いたような感じがしまして…」

ゴーポン:「お前よぉ、彼女の事考えながらサービスしてたんじゃねぇの!ボケた事言ってんじゃねぇぞ!」

今の所、お客様からのクレームはありません。

ソムリエになってホヤホヤのぼくはそんな事ある訳無いとタカをくくっていたのでした。

ぼくは同じワインをもう一本開けて確認する事にしました。

ゴーポン:「A君ーん、忙しいところ悪いんだけどぉ、シャトーLM一本持って来て」。

新人で事情を知らないA君は笑顔でワインを持ってきます。

店内ではスタッフ皆、運動会のように走り回っています。

イライラする瞬間です。

ゴーポン:「はよう持ってこんかぁい!」

A君:「はぁ?」

ワインを取り上げるように受け取り、早速栓を開け、グラスに注ぎました。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」。

そこには松田優作さんがいました。

「なっ、なんじゃこりゃ!」

つづく